札幌高等裁判所 昭和57年(ネ)105号 判決 1983年6月14日
控訴人(原告) X1
控訴人(原告) X2
右両名法定代理人親権者母 X3
控訴人(原告) X3
右三名訴訟代理人弁護士 今瞭美
同 今重一
被控訴人(被告) 協栄生命保険株式会社
右代表者代表取締役 A
右訴訟代理人弁護士 関口保太郎
同 武田信秀
主文
控訴人らの本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
一、控訴人らは、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人X3に対し金一〇六〇万円、同X1、同X2に対し各金三〇万円及び右各金員に対する昭和五五年五月三〇日から右支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、第二審を通じて被控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。
二、当事者の主張及び証拠については、証拠につき当審における書証目録、証人等目録の記載を引用するほか、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。
理由
一、当裁判所は、当審における証拠調の結果を斟酌しても、控訴人らの各請求はいずれも理由がなくこれを棄却すべきものと判断するものであって、その理由は次に付加訂正するほかは原判決の理由説示と同一であるからこれを引用する。
1.原判決八枚目表一行目の「そこで、つぎに抗弁について判断する。」の次に、行を改めて「1 抗弁事実1及び同2のうち亡Bが本件保険契約締結の際、被控訴人に対し本件保険契約約款所定の告知書の告知事項中の「過去一〇年以内の健康状態」に関しアないしコの一〇項にわたる質問事項のうち、「エ、腫瘍、がん、肉腫、ポリープ、白血病」、「コ、上記以外の病気あるいは外傷(たとえば頭部外傷、内臓の損傷、むちうち症など)」の各項について、右告知書回答欄にいずれも該当事実「無」と回答していることは当事者間に争いがない。」と付加する。
2.原判決八枚目表二行目の「1」を「2」と改め、同二行目の「成立に争いのない甲第五号証」の前に「右1の争いのない事実並びに」を付加し、同二行目の「証人C、同Dの各証言」を「原審証人D、同Cの各証言(但し、証人Cについては後記措信しない部分を除く。)」と改める。
3.原判決九枚目表一〇行目の「2」を「3」に改め、同一〇行目の「ところで」の次に「前記1の争いのない事実および」を付加し、同一〇行目の「乙一号証」の次に「三、四号証(いずれも原本の存在も争いない。)当審証人Eの証言により成立を認めることができる乙第五号証の一・二、第六号証の一・二(第六号証の二についてはBの署名および押印部分の成立については争いがない。)」を付加する。
4.原判決九枚目裏六行目の「告知事項としては、」から同一〇行目の「ものというべきである。」までを「告知事項としては「エ、腫瘍」および「コ、上記以外の病気あるいは外傷」の二項が一応考えられる。しかして、右の「エ、腫瘍」の欄には、「がん、肉腫、ポリープ、白血病」の疾病の記載があるが、本件悪性黒色腫は純粋に医学的な分類に従えば、がん、肉腫とは異種の疾病として分類されるのが、正当であろうけれども、一般人の用いる通俗的な意味ではがんの一種と解されているものとみるのが社会常識に合致するものとみられ、保険契約の申込に際して要求される本件告知書の記載においてもその目的からみて、かかる解釈を排斥すべきほどの厳格な分類が要求されているとは解されないから、本件悪性黒色腫は、「エ、腫瘍」の項のがんないし肉腫に包摂されるべき疾病の一つであると解するのが相当であってがんないし肉腫に準じて「エ、腫瘍」に該当する重要な事実というべきである。」に、同一〇行目の「しかし」を「仮にそうでないとしても」にそれぞれ改める。
5.原判決一〇枚目表三行目の「本件悪性黒色腫は」の次に「約四年前に右足背部の鶏卵大の腫瘤という状態で手術を受け約二週間入院し、しかも以前にも同所の切除手術および植皮療法を受けていたことからみれば、少くとも」を加え、同六行目の「いうべきであるので、」を「いうべきである。従って、いずれにせよ、」と改める。
6.原判決一〇枚目裏一行目の「右証言は」から同七行目の「相当である。)。」までを「右証言は当審証人Eの証言に照らして採用しえず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。また、そもそも、本件保険契約約款二〇条のいわゆる告知義務は、被保険者の生命の危険ないし健康にかかわる重要な事実に関し、単に保険者側の質問に対して消極的に応答すれば足りるものではなく、保険者に対し被保険者の生命の危険ないし健康にかかわる重要な事実については自ら積極的に告知する必要があると解されるから、控訴人らの右主張は、それ自体失当ともいえる。」に改める。
7.原判決一〇枚目裏八行目の「3」を「4」に改め、同八行目の「そして、」から一一枚目表一〇行目までを次のとおり改める。
「そして、亡Bが罹患した悪性黒色腫の症状経過は、前記2判示のとおりであって、亡Bは、死亡原因となった悪性黒色腫のため、昭和五〇年一月二〇日右足背部の腫瘍切除手術を受けたこと、その際、亡Bは約二週間の入院をしたこと、亡Bは、右以前に本件悪性黒色腫が発病し、既往症として右部位について切除手術および植皮療法を受けており、昭和五〇年一月実施の右切除手術は亡Bにとって二度目のものであること、本件保険契約締結当時本件悪性黒色腫は多少なりとも進行していたと推認されること、右保険契約締結後約六ケ月を経た昭和五四年八月には、右悪性黒色腫が亡Bの他の身体部位に転移したとの診断の下に北大病院皮膚科に入院し、亡Bはその後八ケ月足らずで死亡するに至ったことからみて、亡Bは、本件保険契約締結に当り、前記告知書所定の告知事項について回答する際、自己の右足背部に鶏卵大の黒色の腫瘤が生じ、これにより昭和五〇年一月に約二週間入院の上、腫瘍切除手術を受けたことに思いを致し、これが自己の生命ないし身体の健康状態の測定上重要な事実であることを認識の上、これを被控訴人に告知することが容易であったのに敢えて「エ、腫瘍」および「コ、上記以外の病気あるいは外傷」のいずれにも該当するとしなかったことは亡Bに少くとも重大な過失があったものといわざるをえない。
この点、控訴人らは、亡Bは本件疾病を単なる「できもの」程度に考え、「病気」というような事実の重要性の認識がなかったことから、本件保険契約締結当時にはこれを失念していたものであって、このことについて亡Bには悪意は勿論、重大な過失があったということはできない旨主張し、原審証人F、同Cの各証言中には右主張にそい、あるいはこれを基礎づける部分もあるが、前記2判示の亡Bの本件悪性黒色腫の症状経過からみると本件保険契約締結に当り、重要事実について告知する際、亡Bが、過去約四年前に二週間も入院して切除手術までした右足背部の腫瘤の発生事実を失念していたものと認めることはできず、たとえ、亡B自身は右腫瘤が悪性の黒色腫である旨の病名を認識していなかったとしても、前記症状の経過からみれば既往症についてそれが自己の健康に重大な影響をもたらすのではないかとの危惧なり不安を少くともその内心に多少なりとも潜在させていたと推認されるので、亡Bが右疾病を全く一過性の単なる「できもの」程度の認識にとどめて、前記の「エ、腫瘍」あるいは「コ、上記以外の病気あるいは外傷」のいずれにも当らないとして、告知する程の重要な事実ではないと考えていたかは大いに疑問であるし、仮に亡Bがそうした認識の下に右告知事項のいずれにも当らないとして、自己の過去の病歴について告知しなかったとすれば、前記症状の経過からみて亡Bは余りに軽率であるといわざるをえず、そのこと自体重大な過失といえ、右各証言部分は前掲各証拠に照らして直ちに採用することはできない。」
二、以上のとおりであって、控訴人らの各請求はいずれも失当として棄却すべきところ、これと同趣旨の原判決は相当で、本件控訴はいずれも理由がないから、民事訴訟法三八四条一項によりこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法八九条、九三条、九五条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奈良次郎 裁判官 藤井一男 中路義彦)